こんにちは! 子どもの笑顔を守る小児歯科医の中野です。
みなさんこんにちは。今回はむし歯の削らない治療方法について解説します!
えっ?削らないでむし歯って治療できるんですか?って思われますよね。
安心してください。むし歯があるのに放置するのではなく、健康な歯を維持し、原因を改善することで、むし歯を進行させない方法、むし歯を治した後に再度むし歯ができるのを防ぐ方法のことです。
そのために、当院ではその子、その家庭の虫歯のリスクを評価し、その情報を患者さんと共有しています。
今回は、伊藤直人先生の著書、「カリエスコントロール 5つのレシピ:デンタルハイジーン別冊」を引用して解説します。
カリエスコントロール 5つのレシピ
1.歯磨き:1日2回2分間
2.フッ化物:濃度
0〜2歳:950ppmで1日2回, 3回以上は450ppm(すりつける程度)
3〜5歳:950ppm(グリンピース大)
6歳〜:1450ppm(2cm程度)
ゆすがない、または1度だけ軽くすすぐ
3.糖(飲食):1日4回まで(当院では5回以内)
4.酸:原因の改善
5.ドライマウス:食べたら歯磨き(シュガーレスガム、アメ、グミは要注意)
それでは患者さんからよくある質問をベースに、一つずつ質疑応答形式で解説していきますね。
Q:なぜ、歯磨きが重要なのですか?
A:むし歯は細菌が引き起こしますが、実際には細菌が歯を溶かす訳ではなく、細菌が作る酸が歯を溶かします。その際、口腔内は唾液による緩衝作用(酸性を中性に戻す力)と自浄作用(酸を洗い流す力)によって、むし歯を防いでいますが、細菌は酸と同時に歯垢を作って、それら干渉作用と自浄作用が及ばないような環境下で持続的に酸を放出します。そのため、放置された古いプラークほど酸性に傾き、むし歯を引き起こしやすくなります。むし歯の原因となるバイオフィルムが形成されるには1日以上かかるため、1日1回は歯磨きをしっかりすることが大切です。
Q:歯磨きの時間は何分行うのが適切ですか?
A:まず、むし歯予防のための歯磨きは、フッ化物配合の歯磨剤を使うことが有効とされており、さらにその作用時間が長いほど効果的だと言われています。120秒までは歯垢(以下バイオフィルム)の表層のみに浸透しているのに対して、30分ではバイオフィルム全体に浸透していたとの報告があり、これは濃度にも依存します。つまり2分以上が推奨されます。
さらに口のすすぎ方に関しては、吐き出すだけ、または少量の水で1回のみが推奨されています。
また、時間帯に関してはフッ化物を長く口腔内に留め、フッ化物を浸透させるためには唾液量が減少し、朝までフッ化物が残る就寝前の使用が効果的と考えられています
Q:子どもと食具(スプーンやフォーク)を共有してもいいですか?
A:むし歯はインフルエンザのような感染症ではないため、他人にはうつりません。確かにミュータンス連鎖球菌などの細菌は親から子どもへ伝搬することが報告されていますが、むし歯は特定の細菌だけが引き起こすわけではなく、多くの口腔内細菌常在菌が関わります。頻繁な糖の摂取によって、細菌により構成されるプラーク中の環境が変化し、細菌の生態系が崩れることによって起こる非感染性の疾患です。
また子どもとの食具の共有について、約3,000人の3歳児を対象とした調査の結果、親が食具共有を避けるなどの行動をとったか否かと子どものむし歯の経験との間に有意な関連性は認められませんでした。そのため、むし歯の観点からは、食具の共有を気にする必要はないでしょう。
歯垢内の歯垢中のpHについて
歯垢中のpHは2日目以降歯が溶け出す臨界pH5.4を下回り、→ 3日目:4.5 → 5日目:4 → 6日目:3.9と徐々に低くなっていきます。
そのため、成熟したプラークでは病原性が増し、特に最深部においてpHがもっとも低くなります。ちなみに成熟した成人の歯では臨界pHは5.4ですが、乳歯や生えたての永久歯は6.0ほどで溶けてしまいます。
Q:甘いものの摂取は4回までって聞いたことがあるけど、食事も含めるの?
A:糖の摂取は食事も含めて4回までです(小児期の当院は5回)としています。
食事であれ、間食であれ、炭水化物にも含まれる糖は摂取されると速やかに細菌によって代謝され、口腔内のpHは中性の7から歯が溶け出す5.4以下となります。その後、唾液の恩恵を受けて、40分から1時間をかけて中性に戻り、この間に再石灰化(溶け出たミネラルが歯に戻る)をするのですが、その間に再度食事をすると、脱灰と再石灰化のバランスが崩れて脱灰方向に進み、むし歯が発生します。これらの理由によって食事と食事の間隔をあけて1日4回までの摂取と定めているのです。
なお、ジュースやアメ、グミなどはダラダラと摂取することが多いので、脱灰(歯が溶ける)している時間が長くなることに注意が必要です。
Q:1歳を過ぎての夜間授乳はむし歯のリスクになりますか?
A:はい。科学的な根拠からもむし歯との関連性が指摘されています。
学術的根拠から、夜間授乳は、唾液分泌の低下・乳糖の長時間曝露・就寝時の歯磨き困難といった要因により、早期乳歯う蝕(ECC: Early Childhood Caries)のリスクを高めるとされています。複数の国内外の研究で、1歳を過ぎてからの夜間授乳や長期授乳がECCの有病率上昇と関連することが示されています。
ただし因果関係は一義的に断定できず、口腔衛生状態や食習慣など交絡因子の影響も大きいです。就寝中は唾液が減って歯を守る力が弱くなるため、夜間授乳の回数を減らすか、授乳後にガーゼで歯を拭くなど、できる範囲で工夫しましょう。」
Q:歯が溶ける原因って、糖だけですか?
A:いいえ。糖のみではなく、酸性の食品や飲料によって歯が溶けることもあります。
酸によって歯が溶ける現象を酸蝕症と言って、むし歯に関わる細菌が出す酸よりもずっと強い酸が歯面に作用するので、むし歯のような表層下の脱灰ではなく、エナメル質表層が短期間に大幅に溶けていきます。
また、嘔吐を繰り返すようなリスクの非常に高い患者さんは以下の受診をお勧めします。
歯が溶ける酸蝕症は、飲食の習慣、胃酸の逆流、嘔吐、服薬の順番で原因を考え、飲み物では、酢、エナジードリンク、フルーツジュース、スポーツドリンク、梅干し、レモンが影響します。
Q:子どもにもドライマウス(お口の乾燥症)ってあるんですか?
A:はい。あります。
唾液はむし歯から歯を守ってくれる大切な働きを担っていて、主に①歯の主成分であるカルシウムイオンやリン酸イオンなどのイオン貯蔵作用です。②は浄化作用で、口の中に入ってきた糖を洗い流す作用です。唾液は口に入った糖の濃度を2分で半減してくれます。③は緩衝作用で、細菌が産生した酸を中和してくれます。その役割を担うのが重炭酸イオンで、咀嚼による刺激唾液には重炭酸イオンがたっぷり存在し、唾液中のpHを1上げてくれます。唾液量が少ないドライマウスでは重炭酸イオンも減少するため、唾液による緩衝作用が低下し、むし歯になりやすくなるのです。
子どものドライマウスについての現状と根拠
ドライマウス(口腔乾燥)は成人だけでなく、小児にも見られることが報告されています。特に喘息やがん治療などの医学的背景をもつ小児では、唾液分泌量の低下や自覚的な口腔乾燥の訴えが比較的多く、臨床的にも注目されつつあります。健常児における有病率や近年の増加傾向については、まだ十分なデータが存在していません。
最近の子どものドライマウスは増えているの?
健常児全体での有病率や経年的な増加傾向を示す全国的なデータは現時点で不足していますが、喘息やアレルギー疾患、薬剤使用、がん治療歴など医学的背景をもつ小児では、口腔乾燥の報告が増えています。また、近年の要因として、口呼吸の増加、アレルギー疾患の増加、マスク生活などが関与する可能性があります。
その他、ドライマウスは、むし歯リスク、口腔粘膜の健康、味覚、嚥下、発音に影響を及ぼす可能性があります。保育園や学校での水分補給、口呼吸改善、マスク使用時の配慮など予防的介入も大切でしょう。
まとめ
以上、カリエスコントロール 5つのレシピ① 歯磨きは1日2回2分間、② 適切な濃度のフッ化物の応用と、濯がない、または1度だけ軽く濯ぐ、③ 糖の摂取は1日4回まで、④ 酸は原因の改善、⑤ ドライマウスは咀嚼の改善と食べたら歯磨き、について解説しました。
「むし歯の削らない治療方法」はご家庭でできることが沢山ありますね。お家ではお父さん、お母さんが名医です。健康な歯で、食事はしっかりと咀嚼して唾液を出し、楽しく生活しましょう。





